高校卒業を機に上京し大学卒業後、日本最大手広告代理店に入社。
その後、ベンチャー企業役員、外資系経営コンサルタントと渡り歩く鹿児島生まれのヤマト(29)。
そんなヤマトの就職活動から現在までを綴った上京物語。
第5話:社会人『そして本社へ』編
「忙しいという理由から手ぶらで打ち合わせに来ることは絶対にするな。」
新しくきたチーム長は、とにかく自ら考え、行動し、営業として全員を扇動すること、営業という枠の中で仕事をせずに職種・役職を越境して仕事をすることを新人だからというのは関係なく求めてくる人だった。
これまで、5年目の先輩と行動を共にしてきた私が、いきなり1人立ちを求められ、全業務の中心に据えられた。
また、一挙手一投足すべてに指導が入り、夜中2時に仕事を振られることもあった。
正直かなりフラフラな毎日だった。
そんな激務の日々を過ごす中、年度が変わるタイミングで行われた新人最後の研修で自信に変わる出来事があった。
「本社の新人には考えられない、5年目と同じぐらいの業務範囲と業務量をやっているな。同期たちに比べても顔つきもいいし、頑張っているな。」
内定時代から面倒を見てくれていた人事担当者からの言葉は、激務の日々に疲れ果てた僕をとてつもなく癒してくれた。
そして、月日が経過した2年目の後半から良い循環が回り始めた。
クライアントはもちろん、社内外のスタッフからも信頼を勝ち取り、通常業務でのリードはもちろん、数億レベルの競合コンペになるとリーダーを任せてもらえるようになった。
3年目には、新人の指導係も任せられ激務の中にも遣り甲斐を感じながら仕事をすることができていた。
「お前なら本社のどこでも行けると思うが、次はどんなことをやりたいんだ?」
1年前に本社から来た、仕事としても人としても憧れていた副支社長から、若手のローテーション異動が間近に迫った3年目秋に面談を受けていた。
「関西時代に、広告領域以外の商品、事業、経営領域での仕事の経験は楽しかったですし、真の企業成長のためには、必ず押さえておくべき領域だということが分かりました。広告会社の将来のためにも、広告領域を越境する仕事が多いチームに異動したいです。」
次のキャリアを考えるにあたって、会社の中でも珍しく、広告領域はもちろん事業戦略、営業改革、社内コミュニケーションまで幅広く従事した経験をさらに伸ばしていきたいと考えていた。
二つ返事かと思っていた私に副支社長は意外な言葉を投げかけてきた。
「これからの長い広告会社生活の中で一度は広告のど真ん中を経験するのはどうだ。今、本社でも成長著しいA社(クライアント)はお前のような営業を求めているぞ。今のお前なら大丈夫だ。」
憧れの副支社長からの言葉に思わず出た言葉が、後から振り返ると自分でも意外だった。
「そうですね。また一から修行してきます。」
関西で獲得した圧倒的な自信と、今後の新しい出会いに期待して東京行きの新幹線に乗った。
ただ、ここからさらにジェットコースターの速度は加速していく。
つづく…